あらすじ 冴えないラッパーの冴えない日常
埼玉のラップグループ「ショウグン」のイックとトムとマイティは初ライブに向けて活動中、メンバーのひとりからライブが決まったと報告を受けたのは役所主催の「若者の声を聞こう」という会だった。。
当日集まったのはこの3人だけのなか、冷めた目で見る役所の方々に向けて渾身のライムを披露。
仕事もロクにしていない彼らの中途半端な活動に、現実の厳しさをこれでもか突きつける社会。
それでもラップへの気持ちを胸にラップを続けていく。
感想 負けっぷりが共感できるリアリティ
イックは太めのラッパー。
高校時代の同級生に偶然出会い、お前がラッパー?ウケるなんて言われるような冴えない高校時代を過ごした彼のラッパー姿は画面上からもカッコよくは見えない。
昼過ぎまで寝て、何をするでもなく、ラップを口ずさみながら街に出る。
何をするでもなく、コンビニの駐車場でおでんを食べている。
すると電話が鳴り、おでんを置いて話し込む。そこにガラの悪いグループの車が駐車場に、おでんを踏みつけてしまう。
イックは悪絡みされて、ボコボコにされる。
そんな一連をイックは武勇伝のようにトムに話す。
トムは歩道橋から下を走るトラックにエアガンを打って楽しむような奴。
少し痛い彼らもラップが大好きでいつか自分のグループでデビューする日を夢見る。
けれど、他のメンバーは彼らがグループにいることはネタだと言い置いて、東京に上京してしまう。
後輩のマイティは彼らを慕うも、他のメンバーの方が可能性があると、一緒に上京する。
残された2人、イックは居酒屋でバイトを始める。
トムはガードマンの仕事を始める。
残された2人はもうラップは諦めたのか。
偶然イックのバイト先の居酒屋で、トムが会社の人達と来店する。まだ諦めてねぇぞ、とイックは突然フリースタイルをイックにぶつける。
あらすじをほぼ書いてしまいましたが、どうしようもない冴えなさっぷりと痛さが共感出来てなかなか直視できませんでした。
負けに負ける彼らの姿が、自分にも同じように負けた経験と重なるからです。
ただ最後に見せられたフリースタイルラップは、それまでの負けっぷりの全てがラップに込められて直視せざるえないシーンでした。
物語の始めこそファッションのように軽く薄かった彼らのラップ。
ラストに掛け合うフリースタイルラップには、彼らのパッションが聴こえ胸に刺さってきます。
彼らの負けはラップとして表現され、負けていれば負けているほど、これまでの様々なシーンを思い浮かべ、さらに刺さってきます。
これまでの負けっぷりは全てこの最後のシーンのフリでもあったのかのように思え、作品や表現は背景を知っていれば知っているほど深く刺さるものだなと思いました。
人生のうち負けることは多くあり、いかに負けるか。負けた後にどう起き上がるか。それを痛々しくも教えてくれる作品でした。
どんな人におすすめか
冴えない人
痛い人
負けっぷりに自信がある人
そんな人達を寒い痛いと一言で片付けてしまう人
次はこの作品はどうでしょう
【キッズ・リターン】
北野武監督作品
若者2人のそれぞれの挑戦。不甲斐なく情けなくどうしようもない負けっぷり。それでも「まだ始まってねぇ」とうそぶく背中がなぜか勇気を湧かせてくれます。
【MROHA】
ラップとギターの二人組。ポエトリー・リーディングとヒップホップの語り口がアルペジオのギターと重なるシンプルだけでも言葉が刺さる表現。歌詞はおそらく自身の胸の内。自身の不甲斐なさと周りへの感謝が溢れる音楽。