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【おすすめ短編小説】「炎上する君」西加奈子 彼女たちがみつけた冒険と戦闘【あらすじ感想】

西加奈子さんの短編小説「炎上する君」の収められているタイトル編でもある「炎上する君」をご紹介します。モテずともキレキレの親友女子ふたりがバンドを組み、音楽で男をなぎ倒していく。そんなある日、足が炎上している男を見つけ2人は恋をする。女性ふたりが織りなす存在と恋愛、闘いの冒険譚。

炎上する男が現れた

梨田と浜中は、高校の同級の親友、男子には学徒動員、火垂るの墓と揶揄されるほど男性にはあまり好かれないルックスと、それに反比例するような知性を持つふたり。

女を外見で判断する男を敵とみなし、知性を武器に一流大学を卒業し、安定したキャリアを築くふたり。
ある日、「安定」ではなく血が滾るような「冒険」を求めて浜中は梨田とバンドを始める。

バンド名はふたりのあだ名から大東亜戦争とつける。

大東亜戦争は順調に人気を高めるが、求めていた「冒険」が見つからない。

そんなある日、街に足元が燃えている男が現れるという噂を耳にする。

噂はどうやら真実味を帯びており、ふたりは一度でも目にしたいと好奇心を頼りに探しまわる。

ついぞ見つけられないふたりの近くに、男が現れた。

彼女らが探していたものは冒険ではなく戦闘だった

男を敵視し、

確かなキャリアとスキルで女ひとりで生きていく強さ、

0から始めた音楽で駆け上がることができたのは、

ひとえに持ち前の知性に裏付けられた探究心があってこそだが、

最大の動機は敵視した男の存在のように感じた。

男を敵視し、

自分の世界のそばに寄せ付けなくすればするほど、心のうちにいつも男はいる。

愛の反対は無関心だとしたら、

好意の反対もまた無関心であり、実は嫌悪は好意の近くにあるものかもしれない。

嫌いと意識する以上の否定の概念は意識すらしないということと同じように。

きっと彼女たちが、ずっと探していたものは、案外近くにあったのだ。

それは炎上男を見て、変化するふたりの内面と、ふたりの友情のありかたに見てとれる。

彼女らは、冒険の前途多難を求めていたのでなはく、戦闘の照準を絞り射抜くその目標物を求めいていたのかもしれない

それはくしくも彼女らの敵視した男という存在だったその反動がさらに物語を加速させる。

文章から人柄や物語、音楽も聞こえてくる

 

「梨田よ、君とバンドを組みたい」

私はビールをゆるく噴いた。

~省略~

「バンド、ということか」

私が聞くと、浜中は、

「そう。バンド。組まないか。」

と、まっすぐな目で言った。

「どうして私なのだ。」

「では聞くが、どうして私が梨田以外の人間と、バンドを組めるのか。」

わたしははっきりと、その言葉に胸を打たれた。

浜中が梨田をバンドに誘うシーン、この会話に彼女達の性格や関係、理性的な口調とは裏腹の純粋な心象が伺える。

「大東亜戦争」のふたりの会話は戦況報告のような臨場と硬さを思わせる。

それは女性の会話とは思えない面白さが流れる。

そんな独特のリズムでシーンが転がり広がり飛んでいく様は音楽を聴いてるような、それこそ大東亜戦争というバンドの魅力なのかもしれない。

 

目次

  • 太陽の上
  • 空を待つ
  • 甘い果実
  • 炎上する君
  • トロフィーワイフ
  • 私のお尻
  • 舟の街
  • ある風船の落下

他の短編のあらすじは下記記事で紹介しております。

【おすすめ短編小説】西加奈子「炎上する君」【全編あらすじと感想】

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【おすすめ短編小説】「約束」石田衣良 大切なひとを失った悲しみと生きるすべてのひとへ【あらすじ感想】

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幼馴染との突然の別れ

幼馴染の小学4年、カンタとヨウジ。

いつまでもふたりの仲が続くと思っていた矢先、不意に別れは訪れる。

カンタの目標であり憧れであり自慢であり夢でもあった幼馴染ヨウジが通り魔に殺された。

その日から何を食べても砂の味しかしない。

ふと気づくと自分自身を傷つけてしまう自傷行為を繰り返してしまう。

ヨウジのいない世界に生きる意味を見出だせないカンタ。

台風吹き荒れる真夜中、抱えきれない喪失感に死に場所を彷徨い歩くカンタの前にヨウジが現れた。

ふたりはある約束を交わす。

その約束は、カンタに生きる理由をもたらした。

身近なひとの死を抱え生きるということ

知人の死は、自分のなかのどこかに穴をあける。

身近であればあるほどその穴は大きい。

関わりあった記憶が現在進行形から過去形に変わり思い出になることは「なる」という自然な流れでなく「強いられる」という大きな負荷を与える。

いくつになってもその負荷はキツく、まして少年が当事者だとしたら計り知れない。

本編は、その計り知れなさを描写しつつ、ふたりの約束を物語の希望にかえて、締めくくられる。

それはヨウジに憧れたカンタが、

死をもってヨウジのそばにいくことを願うことなく、

カンタで在り続け生き続けることでヨウジをそばに感じることができるよう、

悲しみと寄り添いながら生きる人間の生を肯定する著者のささやかな提案のように感じた。

その提案から再度見つめ直す悲しみや、

喪失のぶんだけ深く大きな穴は、亡くなった人がまた自分のなかに訪れることができる通り道なのかもしれない。

だから、いまを確かに生きることで、亡くなったひとが見られなかった景色を見せてあげられる。

それだけで十分に生きようと思えてくる。

少しだけ見方を変える。解釈を変える。

これは生きているひとにしかできない明日を生きるための技術だ。

物語は、その技術、方法論を教えてくれる。

 

 

「約束」目次

  • 約束
  • 青いエグジット
  • 天国のベル
  • 冬のライダー
  • 夕日へ続く道
  • ひとり桜
  • ハートストーン

他の短編のあらすじは下記記事で紹介しております。

【おすすめ短編小説】石田衣良「約束」【全編あらすじと感想】

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