【おすすめ短編小説】観光 タイの街角にいるようなトリップ感が楽しめる短編小説【あらすじ感想】

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美しい海辺のリゾートへ旅行に出かけた失明間近の母とその息子。遠方の大学への入学を控えた息子の心には、さまざまな思いが去来する――なにげない心の交流が胸を打つ表題作をはじめ、11歳の少年がいかがわしい酒場で大人の世界を垣間見る「カフェ・ラブリーで」、闘鶏に負けつづける父を見つめる娘を描く「闘鶏師」など全7篇を収録。人生の切ない断片を温かいまなざしでつづる、タイ系アメリカ人作家による傑作短篇集。

ガイジン  ラッタウット ラープチャルーンサップ

ガイジンしか愛せない短編

あらすじ

タイでモーテルを営む母と息子は季節ごとに世界各地の観光客を迎える。客の目的は象と女。息子は母とアメリカ軍の間に生まれた。出自なのかなぜか観光客のガイジンの女しか愛せない息子。タイでもアメリカでもないアイデンティティのと恋心の不確かさ。

感想

観光地にはハレの空気というか、往来する人々がみな高揚している独特の明るい空気があります。ここはタイでも同じ空気がありつつ、異文化が交流する交差点でもあり、その交流により自身のアイデンティティの不確かさが確かに認識出来るとき、恋心は目の前の景色を輝かせてくれたものから、色彩すら失うほど日常が虚しくなってしまうものなのかもしれません。恋が始まりやすい場所は同時に、恋が終わりやすい場所でもあるのかなと。異国の恋を描く、越谷オサムさんの短編小説を思い出しました。

カフェ・ラブリーで  ラッタウット ラープチャルーンサップ

by unsplash

兄が教えてくれたバイク 短編 

あらすじ

父を不慮の事故で失い母は心を失った。貧しさにも嫌気をさしながら、兄が連れてってくれたハンバーガー屋、クラブ、シンナー、バイク。タイの生ぬるく臭気立つ街中を走り抜けていく兄弟の原付バイクの音が聞こえてくる。

感想

弟を小馬鹿にしながらも、アメリカ発のハンバーガ屋に弟の分しか買えない所持金なのに「自分はお腹が空いていない」と弟にご馳走様するシーンや、弟にせがまれ嫌々クラブに連れていくも、弟が危険な目に合うと弟想いのいち面を見せる兄の姿が印象的でした。最後、なにもかもうまくいっていない現状ではあれど、その現実の街なかを走り抜ける兄弟二人を乗せたバイクのシーンは、もう2度と同じ瞬間が訪れない時間なのだなと、人生は1回性の物語であることを改めて感じました。

徴兵の日 ラッタウット ラープチャルーンサップ

by unsplash

無二の親友を裏切った日の短編

あらすじ

クジにより徴兵選抜をするため、村の若者が集められたある日、親友ウィチャと互いの幸運を祈った男は父に軍への賄賂をしてもらい、徴兵を免れることをウィチャに言えなかった。クジを引くウィチャと男。友情が悲しい。

感想

友情の無垢なつながりは、コネや金銭など社会の不公平な部分により断ち切られ様子がなんとも切なかったです。友情があれば、事情を伝えられれば、また違った形で友情は繋ぎ止められたかもしれませんが、友情の形が変わること自体が怖くなり本当のことを言えない。そんな気持ちを抱えていたとしても、ウィチャにはそれすら届かない。友情を繋ぐのは、まず自身への誠実さが試されます。彼は徴兵を免れ命の危険を免れましたが、大切な何かを失い、後ろめたさを感じながらこれから生きていくのだと思います。

プリシラ ラッタウット  ラープチャルーンサップ

by unsplash

難民少女との思い出 短編

あらすじ

少年はある日、カンボジアから難民としてきた少女プリシラと仲良くなった。街は難民への怒りとしてバラックは焼き払わられ、難民はまた別の場所に。少年は自身の無力感と少女との別れにただただ涙が溢れる。

感想

「難民」と呼ばれる人に会ったことがない自身の環境で想像することは難しいですが、無理して近付けてみると、小さい頃、親に特定の誰々くんと仲良くすることを良くは思われないことと近いかもしれません。子供は親を真似、親が見てるように物事を見ますが、子供が自分の目を通しての気づきも日々生まれます。はじめは穿った見方で見ていた誰々も実は良い奴だから仲良くなったという経験を子供は重ねていくのでしょう。親からの視点と子供の視点が乖離していくことが成長でもあります。しかし、その成長とは裏腹に、子供が社会を変えいていく力はなく、大人の理不尽な言動や行動が、時に子供の心を強く傷つけることがあります。物語で起きる出来事は、現実のこの世界のどこかで今日も起きていると想像しますが、少女プリシラのような子供の笑顔がそんな世界をほんの少しだけでも、救ってくれていればと願います。

こんなところで死にたくない ラッタウット ラープチャルーンサップ

by unsplash

異国で老年を生きる男 短編

あらすじ

半身が思うように動かず老いた身体のため、タイの女性と結婚した息子夫婦と暮らす。異国の地、異国の血を引く孫、何もかも合わない暮らしに塞ぎこむが、ある日、近所に移動遊園地がやってきて、家族でゴーカートをすると。

感想

祖国に残した親友や亡くした妻を思い出すばかりの日々と、その日々に自由に動いていただろう身体はいまはもうなく、息子の妻であるタイの女性にご飯を食べさせてもらう生活。コミュニケーションがうまく取れないもどかしさが老人をより孤独にさせる前半のシーンから、後半に訪れた移動遊園地での老人のはしゃぎっぷりは老人だけでなく、息子夫婦や孫たち家族の世界を開いてくれるタイトルでもある老人が口にした「こんなところで死にたくない」はあの日の夜なら、「ここで死んでもいい」になったのではないかなと感じた家族がもたらす幸せの話でした。

闘鶏師  ラッタウット ラープチャルーンサップ

 

負け続ける父を想う娘 短編

あらすじ

街の悪名高い名士の息子に絡まれた闘鶏師の父。父が育てた闘鶏は、金で買われた闘鶏師と規格外の闘鶏に敵わず負け続ける。なぜ父はそれでも戦うのか。家族の過去、この街の過去を知った娘。救われない未来にそれでも望みを夢見る。

感想

絶対悪の救われない環境に置かれた人がとる行動は見て見ぬふり、無抵抗。今回もそれでよかったはずなのに、なぜ父は抗ったのか。自分が大切に育てた鶏すらも失い、なぜ抗うのか。父は過去に姉をなくした。その事実を招いたのはこの名士であり、その息子も同じように怪物となり、自分の前に立ちはだかったことと過去の自分と同じようにやり過ごすことが許せなかったのかもしれません。何かに取り憑かれるように負ける闘鶏にこだある父の姿に、娘はなにを思ったのでしょうか。ハッピーエンドとはいえない救われない家族の物語。

 

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