【おすすめ短編小説】「短編工場」12の作家の12の物語 【あらすじと感想】

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読んだその日から、ずっと忘れられないあの一編。思わずくすりとしてしまう、心が元気になるこの一編。本を読む喜びがページいっぱいに溢れるような、とっておきの物語たち。2000年代、「小説すばる」に掲載された短編作品から、とびきりの12編を集英社文庫編集部が厳選しました。

短編工場の12人の作家が描く、12の物語はどれもハートフルな最後で締めくくれられる読後感でした。比較的ポップな物語や、SF、昭和の戦後や高度経済成長期を描く時代性、青森の海辺の漁師の父子の物語の土着性のある物語まで多種多様な物語が編まれています。あらすじと軽い感想を書きましたので読書選びの参考にご活用ください。

 

かみさまの娘  桜木紫乃

感情の在りかを見つけてくれる短編 

母は霊能者として近所の人に「かみさま」と呼ばれていた。胡散臭さから募る憎しみに家を出て10年後、母はなくなった。母の葬儀で会ったのは、昔、母の元に通っていた一つ年上の男。男は彼女に借りていた一冊の本と「かみさま」の話をはじめる。

母への憎しみめいた感情が、ひとりの男との再会で溶かされていく。自分でもその感情がどこにあるか分からずいるものは、ひととの出会いや交流で、気付かされ、癒やされていくのかもしれない。誰かから受けた悲しみは、また別の誰かから癒される。ひともひとの気持ちもめぐっていくのかなと感じた物語。

 

ゆがんだ子供  道尾秀介

心のうちのゆがみこそホラーな短編 

一生懸命だけでは評価されない。社会人としてのある種の諦観をもてあそんでい男は、駅のホームでゆがんだ子供に出会う。子供は唐突に3つの問題を出す。3つ目の問題が終わると男は気づく。

とても短い物語なのですが、不穏な空気が終始広がっていて、3つめの問題のあとにどんなことが待っているのか。読み終えたあとに感じたのは、人間の心や記憶こそがホラーかもしれないということでした。

 

ここが青山  奥田英朗

世のなか至るところに骨を埋める所がある短編

36歳で会社が倒産。次の日から妻は働きに出かけ、男は家事と息子の幼稚園の送り迎えをはじめる。元上司、元同僚、親など周りの心配をよそに主夫としての生活を楽しむ自分がいることに気づき始める。

主夫という多くはない職業にいて、世間は心配してくる構図は多かれ少なかれ、みんなが「世間体」という空気で感じているものではないでしょうか。でも、世間体から離れ、自分の思いに正直に生きることがなにより一番だと気づかせてくれる短編。

 

じこくゆきっ  桜庭一樹

“じこくっ、は、じつは、とくに遠い場所ではなかったのだ。義務と、退屈。”

青春の思い出が蘇る短編 女子高生は副担任の女性の先生と鳥取へ夜行列車で向かう。夢のような時間の逃避行がいまもまだ忘れられない。誰にもある青春の記憶と現実のギャップが共感。

 

太陽のシール  伊坂幸太郎

自分で考え決めたのなら大丈夫、な短編 

近い未来に地球がなくなる。そんなとき、夫婦は諦めていた子供を身籠り産むかどうか決めあぐねる。夫はよりによって優柔不断に輪をかけた優柔不断。夫婦が出した答えは。

なくなる未来と、これからくる未来が交差する「いま」に悩む男の答えは、未来や過去でなく、ただ、ここにある「いま」を強く想うことの大切さを教えてくれます。

 

チヨ子  宮部みゆき

大切な思い出が蘇る短編 

着ぐるみアルバイトをする高校生。着ぐるみの中から覗くと、周りの人がぬいぐるみに見える。それは子供の頃に誰もが大切にしていたぬいぐるみ。あの頃、大切にしていたぬいぐるみを思い出した。

二人の名前  石田衣良

名前をつける喜びの短編 

同棲生活も落ち着き、部屋にある物すべてにそれぞれの所有を表すイニシャルをつけていた二人。ある日、二人は生まれたての猫を引き取ることになった。二人で考えたはじめての名前。それは二人の関係を表す名前も変わる出来事だった。

金鵄のもとに  浅田次郎

戦後の兵士が社会という明日を生きる短編 

戦後の焼け野原で物乞いをしていた帰還兵の看板には、ある全滅した隊の生き残りである書かれていた。その看板を見た隊の本当の生き残りである別の男は怒りに物乞いに詰め寄る。物乞いを裏で取り仕切る男、久松と出会い男は戦後の明日を生きるきっかけを見つける。

しんちゃんの自転車  荻原浩  

自転車が乗れた頃を思い出す短編 

夜中、坂道からしんちゃんの乗っていた自転車のカラカラという音がした。窓から覗くとしんちゃんが迎えにきた。真夜中に2人でいった池。しんちゃんとの思い出と自転車。

幼少の頃の友達の記憶は鮮明でもあり、あやふやでもあります。思い出してみると、あの時のあの子はなんであんなことを言ったんだろう。そして自分はなぜ、そのワンシーンが記憶として思い出すのだろう。と懐かしさは不思議な気持ちを含ませて蘇ります。この物語は少女が自転車に乗れるようになる時の思い出です。不思議で懐かしい思い出が、いまかすかに自分の癖や行動の一端になっていることに気付かされる短編でした。

川崎船  熊谷達也  

家族の約束に心温まる短編

昭和、ある漁師町は手漕ぎからモーターエンジンへと移り変わろうとしていた。漁師の息子は父に最新のエンジンの購入を迫るが父は首を縦に振らない。その理由が心温まる。

時代にも海にも荒波に揉まれる漁師町の親子。経済成長に船もモーターエンジンの搭載の時代がやってくる。その確実な未来に父がいっこうに動こうとしない様子に息子は苛立ちと不信感を抱く。ある日、父が漁の仕込み中に大怪我をし、船の頭を任された息子。それは父の偉大さを思い知る出来事だった。最後に父から告げられた言葉とモーターエンジン渋った理由が、子を想う故の判断だったことを知り、目頭が熱くなりました。

約束  村山由佳 ‪

タイムマシンはここにあった短編‬ 

仲良し4人組の小学男子、一人が病にかかり入院へ。難病を患った友の姿にタイムマシンを作る三人。タイムマシンは完成したが願いは叶わず。その時の気持ちは未来を形作る。タイムマシンは心に。

少年たちそれぞれの未来は、研究者や工場の跡継ぎになった他の2人とは反して、この物語の語り手でもある主人公は不確定のまま大人に、それでもあの頃の想い出を言葉にするこの作品こそが、つまり、タイムマシンなのだというひとつの答えを提示してくれてると個人的には感じています。それは言葉こそが、誰かの心に届き、いまこの瞬間に、ここにはない記憶や感情を呼び起こすタイムマシンであるという作家の答えでもあるのかなと思いました。ネタバレしてますが、とても気づきのある解釈を与えてくれた物語でした。

 

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