【伊坂幸太郎】の薦める作品

【おすすめ短編小説】最後の恋 MEN’S―つまり、自分史上最高の恋。【全編あらすじと感想】

男は、とっておきの恋ほど誰にも見せない。本当の恋のクライマックスは、自分の心だけが知っている。忘れられない、忘れたくない気持ちはきっと、ひとりで大切にするものと解っているから―男たちがどこか奥のほうにしまいこんだ「本気の恋」。7人の作家が描き出すのは、女には解らない、ゆえに愛すべき男心。恋人たちの距離を少しずつ、でも確かに近づける究極の恋愛アンソロジー。

男性作家が7人が描く7つの恋の物語。そしてその恋は最後の恋がテーマ。最後とはどういう意味だろう。作家それぞれが描く最後の意味を想像してみたり、その恋物語自体を楽しんだり、老夫婦の恋や、初恋、異国の恋や、学生時代の淡い恋、など多種多様な恋物語が楽しめます。伊坂幸太郎さんの伏線回収の妙、朝井リョウさんのみんなといることの「孤独」な俯瞰的な目線など、作家それぞれが持つ特徴も随所に見られる作品群です。あらすじと軽い感想を書きましたので読書選びの参考にご活用ください。

 

僕の舟  伊坂幸太郎


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最後の恋と最初の恋の短編‬ 

あらすじ

水兵リーベ僕の舟、元素記号の覚え歌を口ずさみ、老婆は夫の介護の傍ら、探偵に昔の恋人を探してもらう。偶然見つかった恋人のいまを知り、涙がこぼれた。僕の舟が案内してくれる最初で最後の恋。‬  ‪

感想

老婆のおもいつきではじまった探偵への依頼から、思いがけず、老夫婦が結ばれていく物語が編まれていく展開はさすが伊坂幸太郎さんと感心しっぱなしでした。伊坂幸太郎さんらしい伏線回収がミステリーでなく、恋物語で展開されていく様子は、恋愛が持つ偶然性を表現しているようであり、かつ伏線回収の気持ちよさであるロジカルさが男性の私にも恋物語を楽しく読ませてくれたのかなと思います。

3コデ5ドル  越谷オサム


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異国の女性に恋をした短編

あらすじ

観光地のとある島の雑貨屋で働くジョンはいつも花を買いに来る日本人女性ケイコに淡い恋心を抱く。偶然街で見かけた彼女交わした言葉の通じない会話が二人の距離を少しだけ近づける。彼女にとって悲しい思い出の島が彩りを帯びはじめる。

感想

言葉とはなんだろう。恋とはなんだろう。国も言葉も違う者同士が人間関係を築くのは、その人特有の背景やコミュニケーション能力でなく、もっと動物的な感覚が先にきているのかもしれません。ジョンはケイコへの感情を言葉よりも先に抱いているようでもあり、少しづつ互いを知っていくと、先の感情が確かだったことを言葉が後付のように説明してくれる。心が先立って表現されるとき、ひととひとは、つながり始めるのかもしれないなと感じた恋物語でした。

水曜日の南階段はきれい  朝井リョウ

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「卒業」が教えてくれる恋心の短編 

あらすじ

軽音楽部の神谷は音楽サークルが有名な大学を目指す。苦手な英和訳を同じクラスの夕子さんに教えてもらう。夕子さんについて、前から気になっていたことがある。なぜ夕子さんは南階段を掃除しているのか。神谷も好きなあの階段。その答えは卒業式のあとに初めてわかる。

感想

この高校には卒業の日に文集が配られる。その表紙はひとりひとりがデザインできるそう。なかにはカップルそれぞれが表紙を交換しあって卒業の日の文集に想いを込めるなどの慣習があるのだと。ふとしたきっかけで仲良くなった神谷と夕子さん、夕子さんから文集の表紙を交換しようと言われ、手にした卒業の日に夕子さんの想いを知った神谷。なぜ階段を掃除しているのか、夕子さんの進路や将来の夢など、これまで聞きたかったことが書かれていた。そしてこれからも聞きたかったことがたくさんあったことにも気付かされる神谷。卒業で離れるふたりをつなぐのは互いの夢。恋や夢、将来、友達、孤独。青春と言われているあの頃に大切にしていたすべてが込められている短編でした。

イルカの恋  石田衣良 ‪

叶わぬ恋の短編‬  ‪

あらすじ

イルカは哺乳類でありながら海にいきる生き物。男から女になった女性と叶わぬ恋をしていた男。その恋をそばで見ていたもうひとりの女性。三人の悲しみが海に溶けていく。‬  ‪

感想

仕事をやめ、アルバイト先として海辺のカフェに採用された女性と、店を営む男女ふたり。そのふたりは恋仲であり、女性のほうは、男性から女性に変わった人だった。太ももにはイルカのタトゥーが入っていてる。男性は資産家の生まれで跡継ぎである身分から逃れ、ここでふたりカフェを営んでいる。二人の外にある世界が抗えない力で二人を引き離そうとする。ある日、イルカの女性が、行方不明に。悲劇的な恋の終わりにただただ、残された男性に寄り添う女性。イルカの哺乳類であり、海でいきる。寄る辺のなさに漂う姿が3人の姿と重なって見えました。

桜に小禽  橋本紡

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恋、別れの時、短編

あらすじ

もうすぐ引っ越し業者が来る。この部屋から出ていく二人は、終わらない引っ越し準備をそれぞれ別々にしていた。ダンボール箱にしまうモノに想い出が蘇ってくる。別れ際の寂しさを、この部屋にしまうまでの最後の時間。

感想

モノや空間をきっかけで思い出されるのは記憶だけでなく、その時の感情もかすかではあれど蘇ってくることがあります。その過去の感情は、いまの決断を揺るがせはしないものの、決して戻ることができない過去との別れをより寂しくさせます。誰にでもあった別れの記憶と感情の物語です。

エンドロールは最後まで  荻原浩 ‪

意地でも最後まで見届ける恋の短編‬  ‪

あらすじ

独身女性は結婚について「なし」と決めた矢先ひとり映画館の後のひとり牛丼屋で声を掛けられた。それは先ほど同じ映画を観ていた男性。恋仲になるのも自然の二人だった。けれど彼の素性だけが未だ分からなかった‬。

感想

最後の恋とは、「終わり」のことでも恋人として「最後の人」とという決して自分史上最上の恋でもなく、これからどうなるか、よくわからないけれども、いま大事にしたい恋を「最後」まで見届けてみようと思う心でもあり、それは「最後」でなく「最初」のつまり、「はじまり」の希望のような類のものでもあるのかなと意思を感じる物語でした。

七月の真っ青な空に  白石一文

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夏、喪失と希望と恋の季節 短編

あらすじ

三年前の夏、婚約者を失った女性。七年前の夏、愛する妻を失った男性。夏の空の下、心を失ってしまった二人が出会い心を取り戻してくれたのもまた夏の真っ青な空の下の恋だった。

感想

ひとは恋を失うと、いままで満たされていた場所にぽっかりとした空しさを心に覚えます。恋をして、恋を失ってはじめて、ひとは自分の心の大きさや輪郭を知っていくのかもしれません。少しづつ自分の心の形を知ることで、また、互いに惹かれ合う心の形を見つけていくのかもしれません。

 

 

 

 

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読んだその日から、ずっと忘れられないあの一編。思わずくすりとしてしまう、心が元気になるこの一編。本を読む喜びがページいっぱいに溢れるような、とっておきの物語たち。2000年代、「小説すばる」に掲載された短編作品から、とびきりの12編を集英社文庫編集部が厳選しました。

短編工場の12人の作家が描く、12の物語はどれもハートフルな最後で締めくくれられる読後感でした。比較的ポップな物語や、SF、昭和の戦後や高度経済成長期を描く時代性、青森の海辺の漁師の父子の物語の土着性のある物語まで多種多様な物語が編まれています。あらすじと軽い感想を書きましたので読書選びの参考にご活用ください。

 

かみさまの娘  桜木紫乃

感情の在りかを見つけてくれる短編 

母は霊能者として近所の人に「かみさま」と呼ばれていた。胡散臭さから募る憎しみに家を出て10年後、母はなくなった。母の葬儀で会ったのは、昔、母の元に通っていた一つ年上の男。男は彼女に借りていた一冊の本と「かみさま」の話をはじめる。

母への憎しみめいた感情が、ひとりの男との再会で溶かされていく。自分でもその感情がどこにあるか分からずいるものは、ひととの出会いや交流で、気付かされ、癒やされていくのかもしれない。誰かから受けた悲しみは、また別の誰かから癒される。ひともひとの気持ちもめぐっていくのかなと感じた物語。

 

ゆがんだ子供  道尾秀介

心のうちのゆがみこそホラーな短編 

一生懸命だけでは評価されない。社会人としてのある種の諦観をもてあそんでい男は、駅のホームでゆがんだ子供に出会う。子供は唐突に3つの問題を出す。3つ目の問題が終わると男は気づく。

とても短い物語なのですが、不穏な空気が終始広がっていて、3つめの問題のあとにどんなことが待っているのか。読み終えたあとに感じたのは、人間の心や記憶こそがホラーかもしれないということでした。

 

ここが青山  奥田英朗

世のなか至るところに骨を埋める所がある短編

36歳で会社が倒産。次の日から妻は働きに出かけ、男は家事と息子の幼稚園の送り迎えをはじめる。元上司、元同僚、親など周りの心配をよそに主夫としての生活を楽しむ自分がいることに気づき始める。

主夫という多くはない職業にいて、世間は心配してくる構図は多かれ少なかれ、みんなが「世間体」という空気で感じているものではないでしょうか。でも、世間体から離れ、自分の思いに正直に生きることがなにより一番だと気づかせてくれる短編。

 

じこくゆきっ  桜庭一樹

“じこくっ、は、じつは、とくに遠い場所ではなかったのだ。義務と、退屈。”

青春の思い出が蘇る短編 女子高生は副担任の女性の先生と鳥取へ夜行列車で向かう。夢のような時間の逃避行がいまもまだ忘れられない。誰にもある青春の記憶と現実のギャップが共感。

 

太陽のシール  伊坂幸太郎

自分で考え決めたのなら大丈夫、な短編 

近い未来に地球がなくなる。そんなとき、夫婦は諦めていた子供を身籠り産むかどうか決めあぐねる。夫はよりによって優柔不断に輪をかけた優柔不断。夫婦が出した答えは。

なくなる未来と、これからくる未来が交差する「いま」に悩む男の答えは、未来や過去でなく、ただ、ここにある「いま」を強く想うことの大切さを教えてくれます。

 

チヨ子  宮部みゆき

大切な思い出が蘇る短編 

着ぐるみアルバイトをする高校生。着ぐるみの中から覗くと、周りの人がぬいぐるみに見える。それは子供の頃に誰もが大切にしていたぬいぐるみ。あの頃、大切にしていたぬいぐるみを思い出した。

二人の名前  石田衣良

名前をつける喜びの短編 

同棲生活も落ち着き、部屋にある物すべてにそれぞれの所有を表すイニシャルをつけていた二人。ある日、二人は生まれたての猫を引き取ることになった。二人で考えたはじめての名前。それは二人の関係を表す名前も変わる出来事だった。

金鵄のもとに  浅田次郎

戦後の兵士が社会という明日を生きる短編 

戦後の焼け野原で物乞いをしていた帰還兵の看板には、ある全滅した隊の生き残りである書かれていた。その看板を見た隊の本当の生き残りである別の男は怒りに物乞いに詰め寄る。物乞いを裏で取り仕切る男、久松と出会い男は戦後の明日を生きるきっかけを見つける。

しんちゃんの自転車  荻原浩  

自転車が乗れた頃を思い出す短編 

夜中、坂道からしんちゃんの乗っていた自転車のカラカラという音がした。窓から覗くとしんちゃんが迎えにきた。真夜中に2人でいった池。しんちゃんとの思い出と自転車。

幼少の頃の友達の記憶は鮮明でもあり、あやふやでもあります。思い出してみると、あの時のあの子はなんであんなことを言ったんだろう。そして自分はなぜ、そのワンシーンが記憶として思い出すのだろう。と懐かしさは不思議な気持ちを含ませて蘇ります。この物語は少女が自転車に乗れるようになる時の思い出です。不思議で懐かしい思い出が、いまかすかに自分の癖や行動の一端になっていることに気付かされる短編でした。

川崎船  熊谷達也  

家族の約束に心温まる短編

昭和、ある漁師町は手漕ぎからモーターエンジンへと移り変わろうとしていた。漁師の息子は父に最新のエンジンの購入を迫るが父は首を縦に振らない。その理由が心温まる。

時代にも海にも荒波に揉まれる漁師町の親子。経済成長に船もモーターエンジンの搭載の時代がやってくる。その確実な未来に父がいっこうに動こうとしない様子に息子は苛立ちと不信感を抱く。ある日、父が漁の仕込み中に大怪我をし、船の頭を任された息子。それは父の偉大さを思い知る出来事だった。最後に父から告げられた言葉とモーターエンジン渋った理由が、子を想う故の判断だったことを知り、目頭が熱くなりました。

約束  村山由佳 ‪

タイムマシンはここにあった短編‬ 

仲良し4人組の小学男子、一人が病にかかり入院へ。難病を患った友の姿にタイムマシンを作る三人。タイムマシンは完成したが願いは叶わず。その時の気持ちは未来を形作る。タイムマシンは心に。

少年たちそれぞれの未来は、研究者や工場の跡継ぎになった他の2人とは反して、この物語の語り手でもある主人公は不確定のまま大人に、それでもあの頃の想い出を言葉にするこの作品こそが、つまり、タイムマシンなのだというひとつの答えを提示してくれてると個人的には感じています。それは言葉こそが、誰かの心に届き、いまこの瞬間に、ここにはない記憶や感情を呼び起こすタイムマシンであるという作家の答えでもあるのかなと思いました。ネタバレしてますが、とても気づきのある解釈を与えてくれた物語でした。

 

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