読書

【おすすめ短編小説】最後の恋 MEN’S―つまり、自分史上最高の恋。【全編あらすじと感想】

男は、とっておきの恋ほど誰にも見せない。本当の恋のクライマックスは、自分の心だけが知っている。忘れられない、忘れたくない気持ちはきっと、ひとりで大切にするものと解っているから―男たちがどこか奥のほうにしまいこんだ「本気の恋」。7人の作家が描き出すのは、女には解らない、ゆえに愛すべき男心。恋人たちの距離を少しずつ、でも確かに近づける究極の恋愛アンソロジー。

男性作家が7人が描く7つの恋の物語。そしてその恋は最後の恋がテーマ。最後とはどういう意味だろう。作家それぞれが描く最後の意味を想像してみたり、その恋物語自体を楽しんだり、老夫婦の恋や、初恋、異国の恋や、学生時代の淡い恋、など多種多様な恋物語が楽しめます。伊坂幸太郎さんの伏線回収の妙、朝井リョウさんのみんなといることの「孤独」な俯瞰的な目線など、作家それぞれが持つ特徴も随所に見られる作品群です。あらすじと軽い感想を書きましたので読書選びの参考にご活用ください。

 

僕の舟  伊坂幸太郎


by unsplash

最後の恋と最初の恋の短編‬ 

あらすじ

水兵リーベ僕の舟、元素記号の覚え歌を口ずさみ、老婆は夫の介護の傍ら、探偵に昔の恋人を探してもらう。偶然見つかった恋人のいまを知り、涙がこぼれた。僕の舟が案内してくれる最初で最後の恋。‬  ‪

感想

老婆のおもいつきではじまった探偵への依頼から、思いがけず、老夫婦が結ばれていく物語が編まれていく展開はさすが伊坂幸太郎さんと感心しっぱなしでした。伊坂幸太郎さんらしい伏線回収がミステリーでなく、恋物語で展開されていく様子は、恋愛が持つ偶然性を表現しているようであり、かつ伏線回収の気持ちよさであるロジカルさが男性の私にも恋物語を楽しく読ませてくれたのかなと思います。

3コデ5ドル  越谷オサム


by unsplash

異国の女性に恋をした短編

あらすじ

観光地のとある島の雑貨屋で働くジョンはいつも花を買いに来る日本人女性ケイコに淡い恋心を抱く。偶然街で見かけた彼女交わした言葉の通じない会話が二人の距離を少しだけ近づける。彼女にとって悲しい思い出の島が彩りを帯びはじめる。

感想

言葉とはなんだろう。恋とはなんだろう。国も言葉も違う者同士が人間関係を築くのは、その人特有の背景やコミュニケーション能力でなく、もっと動物的な感覚が先にきているのかもしれません。ジョンはケイコへの感情を言葉よりも先に抱いているようでもあり、少しづつ互いを知っていくと、先の感情が確かだったことを言葉が後付のように説明してくれる。心が先立って表現されるとき、ひととひとは、つながり始めるのかもしれないなと感じた恋物語でした。

水曜日の南階段はきれい  朝井リョウ

by unsplash

「卒業」が教えてくれる恋心の短編 

あらすじ

軽音楽部の神谷は音楽サークルが有名な大学を目指す。苦手な英和訳を同じクラスの夕子さんに教えてもらう。夕子さんについて、前から気になっていたことがある。なぜ夕子さんは南階段を掃除しているのか。神谷も好きなあの階段。その答えは卒業式のあとに初めてわかる。

感想

この高校には卒業の日に文集が配られる。その表紙はひとりひとりがデザインできるそう。なかにはカップルそれぞれが表紙を交換しあって卒業の日の文集に想いを込めるなどの慣習があるのだと。ふとしたきっかけで仲良くなった神谷と夕子さん、夕子さんから文集の表紙を交換しようと言われ、手にした卒業の日に夕子さんの想いを知った神谷。なぜ階段を掃除しているのか、夕子さんの進路や将来の夢など、これまで聞きたかったことが書かれていた。そしてこれからも聞きたかったことがたくさんあったことにも気付かされる神谷。卒業で離れるふたりをつなぐのは互いの夢。恋や夢、将来、友達、孤独。青春と言われているあの頃に大切にしていたすべてが込められている短編でした。

イルカの恋  石田衣良 ‪

叶わぬ恋の短編‬  ‪

あらすじ

イルカは哺乳類でありながら海にいきる生き物。男から女になった女性と叶わぬ恋をしていた男。その恋をそばで見ていたもうひとりの女性。三人の悲しみが海に溶けていく。‬  ‪

感想

仕事をやめ、アルバイト先として海辺のカフェに採用された女性と、店を営む男女ふたり。そのふたりは恋仲であり、女性のほうは、男性から女性に変わった人だった。太ももにはイルカのタトゥーが入っていてる。男性は資産家の生まれで跡継ぎである身分から逃れ、ここでふたりカフェを営んでいる。二人の外にある世界が抗えない力で二人を引き離そうとする。ある日、イルカの女性が、行方不明に。悲劇的な恋の終わりにただただ、残された男性に寄り添う女性。イルカの哺乳類であり、海でいきる。寄る辺のなさに漂う姿が3人の姿と重なって見えました。

桜に小禽  橋本紡

by unsplash

恋、別れの時、短編

あらすじ

もうすぐ引っ越し業者が来る。この部屋から出ていく二人は、終わらない引っ越し準備をそれぞれ別々にしていた。ダンボール箱にしまうモノに想い出が蘇ってくる。別れ際の寂しさを、この部屋にしまうまでの最後の時間。

感想

モノや空間をきっかけで思い出されるのは記憶だけでなく、その時の感情もかすかではあれど蘇ってくることがあります。その過去の感情は、いまの決断を揺るがせはしないものの、決して戻ることができない過去との別れをより寂しくさせます。誰にでもあった別れの記憶と感情の物語です。

エンドロールは最後まで  荻原浩 ‪

意地でも最後まで見届ける恋の短編‬  ‪

あらすじ

独身女性は結婚について「なし」と決めた矢先ひとり映画館の後のひとり牛丼屋で声を掛けられた。それは先ほど同じ映画を観ていた男性。恋仲になるのも自然の二人だった。けれど彼の素性だけが未だ分からなかった‬。

感想

最後の恋とは、「終わり」のことでも恋人として「最後の人」とという決して自分史上最上の恋でもなく、これからどうなるか、よくわからないけれども、いま大事にしたい恋を「最後」まで見届けてみようと思う心でもあり、それは「最後」でなく「最初」のつまり、「はじまり」の希望のような類のものでもあるのかなと意思を感じる物語でした。

七月の真っ青な空に  白石一文

by unsplash

夏、喪失と希望と恋の季節 短編

あらすじ

三年前の夏、婚約者を失った女性。七年前の夏、愛する妻を失った男性。夏の空の下、心を失ってしまった二人が出会い心を取り戻してくれたのもまた夏の真っ青な空の下の恋だった。

感想

ひとは恋を失うと、いままで満たされていた場所にぽっかりとした空しさを心に覚えます。恋をして、恋を失ってはじめて、ひとは自分の心の大きさや輪郭を知っていくのかもしれません。少しづつ自分の心の形を知ることで、また、互いに惹かれ合う心の形を見つけていくのかもしれません。

 

 

 

 

【伊坂幸太郎の短編小説】

【おすすめ短編小説】伊坂幸太郎作品のおすすめ短編小説リスト

【石田衣良の短編小説】

【おすすめ短編小説】石田衣良「約束」【全編あらすじと感想】

【おすすめ短編漫画】町田洋「夜のコンクリート」【全編あらすじと感想】

「夜のコンクリート」にある「懐かしさ」と記憶という「SF」

町田洋さんの4編からなる短編集。どの編にも通じるのは、「懐かしさ」という幼少や青年のときに出会った思い出です。あの頃の思い出やその時に感じた心の動きが、町田洋さん描く「SF」が散文的に散りばめられた世界観のなかに蘇ります。

夜のコンクリート  町田洋

建物も眠る深夜3時の短編

不眠が続く男。同僚が近所で酔いつぶれていたので泊めることになり、連れ添いでいた同僚の知人も一緒に。その知人は不思議な力があり建物の声が聞こえると。建物に耳を澄ます深夜3時。

不眠が続く男が同僚の知人から「深夜3時から明け方まで建物も眠る」聞いたあとにベランダから見た夜明け前の街並みのシーンは誰もが同じ時間の街並みに感じた街全体が眠っているあの感じが蘇ってきました。男がそれを目にした後の少し眠れそうな柔らかい雰囲気が印象的です。

夏休みの町  町田洋

夏休みの懐かしさが蘇る短編 

夏休み。青年はバーベキューをするため、山の上で戦闘機と老人を見つけた。老人は過去に宇宙人にとらわれた友人を取り戻す計画をたて、青年は協力することに。宇宙人にとらわれた者は自分の心地の良い世界の中で生き続けるそう。その世界を見たとき青年は気づく。

個人的な感覚ですが、学生の夏休みは長く、永遠に続くような錯覚を覚えていました。あの頃の感覚が入道雲のように広がった物語の世界観に懐かしさを感じるとともに、老人との出会いという「SF」に突然夏休みが終わりを迎えていく寂しさが襲ってきます。夏休みに出来た思い出やイメージは確かに誰の心のなかにあることを思い出させてくれる物語でした。

青いサイダー  町田洋

子供の頃に頼りにしていたイメージが蘇る短編 

小学生の少女は友達が出来ず、いつも空想の「島」をイメージして遊んでいた。その「島」は喋り彼女の友達でもある。彼女が暮らす団地の屋上に仙人と呼ばれいつも空を見上げている周囲から怪しまれてるおじさんがいた。彼女とおじさんが出会った時、「島」が。

「島」を少女の友達とされている設定に少し難しく感じたのですが、誰もが幼少の頃描いていた世界観やその世界にいた友達やキャラクターが彼女にとっては「島」であったと思うと、もう思い出すことも見ることもできないイメージがあったとことの寂しさや輝きみたいなものの微かな風が吹くような短編でした。

発泡酒  町田洋

若い時に言った言葉は発泡酒と似ている短編 

「音楽を作ることは俺の全てだ」あの頃友人が言った言葉は、確かにあの頃の自分の心に響いた。大人になって久しぶりに会ったその友人がもうそんな言葉のかけらもなくとも。言葉と発泡酒は似ている。